愛あればこそ

愛あればこそ

宝塚愛をこじらせたヅカヲタの戯言

金のシガレットケースが幸せを運ぶものがたり ◆ ’17・月組『グランドホテル』

ザ・ミュージカル『グランドホテル』
月組宝塚大劇場 2017年1月1日~1月30日東京宝塚劇場 2017年2月21日~3月26日
脚本/ルーサー・ディヴィス
作曲・作詞/ロバート・ライト、ジョージ・フォレスト
追加作曲・作詞/モーリー・イェストン
オリジナル演出・振付、特別監修/トミー・チューン
演出/岡田 敬二、生田 大和
翻訳/小田島 雄志 “GRAND HOTEL, THE MUSICAL is presented through special arra
主演/珠城りょう・愛希れい

 

月組公演 『グランドホテル』『カルーセル輪舞曲(ロンド)』 | 宝塚歌劇公式ホームページ 

f:id:whea-t:20170312220200j:plain組の、そして作品の雰囲気ってほんとトップスター次第なんだなーと思いました。珠城りょうトップとして新たに生まれ変わった月組はいい意味でまさきさんの残像が残らずにちゃんと珠城色に染まっていてだから思ったよりも胸を痛めることなく落ち着いて見ることができました。ただそこに愛希れいかがまだ存在しているということが胸の奥の方に燻っている小さな痛みを忘れさせてはくれなかったのも事実です。傷は根深い。

うっすらとした記憶の中に初演の記憶が残っていて、先日スカステで放送した映画版も観ていたので『グランドホテル』とはなんぞや、ということはわかってはいたものの、さすが群像劇のハシリと言われるだけありますねー。すっごいおもしろかったです。ていうか、こういうジワる作品がそもそも好きです。

 

善と悪。白と黒。天使と悪魔。そんな両者が存在するならばこのものがたりではそれが“金のシガレットケース”と“運転手”でした。男爵の“善”を象徴する“金のシガレットケース”と“悪”を象徴する“運転手”。だからこそあれだけの重要な役どころにも関わらずキャストクレジットが「運転手」なんですよね。勝手な解釈だけど。そしてその両者が並行する様々なストーリーラインを要所要所で絶妙につなげてくれている感じはぞくぞくするほどおもしろかったです。

大劇場の得意技でもある盆・セリ・銀橋をすべて封印した舞台は宝塚歌劇にとっては挑戦だったと思うけど実際そんなことなどまったく感じさせる暇がないほどたくさんの椅子と演者がまるでマスゲームのように一糸乱れぬ動きをしているその景色は至極圧巻でした。これだけの息の合った動きは、基本ずっと同じ演者(組子)で作品を作り上ていく宝塚歌劇団という特殊さが功を奏したとも言えて、そういう意味では宝塚向きの作品なのかもしれません。

 

そう、作品としては素晴らしい。申し分ないです。

 

ただ、お披露目作品じゃない。いくらたまきがすでに貫禄があろうが、ちゃぴが年齢と経験をすっかり重ねていようが、お披露目でやるべき作品じゃないです。お披露目は、宝塚のトップスターのお披露目は、たったひとりその人の魅力を周りの79人を薄めてでも押し出していかなきゃいけない。「わたしがこの組の新しいトップスターです!」というタスキが見えるくらいに演出してあげないといけない。まだ大劇場ゼロ番の位置を確立していないトップスターなんだから。そう思うとやっぱり群像劇をお披露目に持ってきちゃいけないし、そういう意味でたまきはちょっと薄かったです。ましてやまだ研究科9年の生徒なんだからもっとお膳立てしてあげるべきだったと思うしみやちゃんに持ってかれそうなところをちゃぴが相手役でいたことでぎりぎり主演感を保っていたように感じました。決してたまきが力不足なわけじゃなく、落ちぶれた盗人家業の内にある根は人のいい貴族感がそこはたまきの持ち味に合っていたのかすごくよく出ていて、たまき男爵はとても好演していたと思います。だから余計にたまきちょっとかわいそうだったかなーという印象です。まあお披露目なのに役替わりで主役以外の役を割り当てられた某トップスターに比べたら屁でもない話ですが。ええ、嫌味ですがなにか(こちらも根深い)。

そしてそろそろトップ経験丸5年が経とうとしているちゃぴのエリザヴェッタ(この呼び方の方がすきです)は評判通りすごかった。39歳と39ヶ月の声、表情、悲壮感。二十代半ば(すみれコード)のかわいいちゃぴこはどこへやら、すっかり更年期障害真っ只中の、でも落ちぶれはしても未だプリマドンナ然とした凛々しさは損なわない、絶妙な芝居をまるでエリザヴェッタが憑依したかのように演じていてなんかもう...なんというか......すごかったです(語彙力)。男爵が絶対来ると信じてロビーで待つエリザヴェッタの少女のように恋する表情がとってもかわいかったのが余計に数時間後にはどう欺いても悲しい現実を突きつけられざるを得ない深い悲しみに転じるんだというこちら側の勝手な憐憫の情を駆り立てられて泣けました。

初演では主役だったオットーを演じたみやちゃんは逆に押し出し加減をうまく抑えていてすごいなーと思ったし、若いフラムシェンが心を許すだけのチャーミングさと優しさに満ち溢れていて、ラストのフラムシェンの告白に対しての「生まれたばかりの赤ちゃん見るの初めてなんです」的な台詞がほんとうに屈託なく嬉しそうに言うのでフラムシェンに代わって泣きました。男爵から受け継いだ金のシガレットケースをかつては自分を冷たくあしらったエリックに託す...ただのアイテムがオットーを経由することでまるで天に選ばれし者に与えられる幸福の象徴にも見えました。

 

私が観た回はラファエラあーさ、フラムシェンわかば。ふたりとも好演していました。エリザヴェッタの幸せだけを思って常に寄り添うラファエラの無償の愛があーさの切ない歌声に溢れていたしわかばのフラムシェンはかわいいおバカさん加減が絶妙でニンに合っていたと思います。まさきさんのいない月組を観ることに消極的でチケットを1枚しか取らなかったことをここにきて後悔しました。役替わりも観たかった...(ぐすん)

 

 

そうそう、男爵がエリザヴェッタの部屋に忍び込んだ時に言う「あなたの呼吸した空気を呼吸したくて」みたいな台詞がまさおちゃんに対する自分かよ!と突っ込みたくなったという告白を最後に残して終わりにしますね(爽やかな笑顔で)

 

wheat.hateblo.jp