愛あればこそ

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宝塚愛をこじらせたヅカヲタの戯言

トップスターが悪役を満喫 ◆ '14星組『The Lost Glory-美しき幻影-』

 

Musical『The Lost Glory-美しき幻影-』
星組宝塚大劇場 2014年7月18日~8月18日/東京宝塚劇場 9月5日~10月5日
作・演出/植田景子
主演/轟悠・柚希礼音・夢咲ねね
 

星組公演 『The Lost Glory —美しき幻影— 』『パッショネイト宝塚!』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

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轟さん久々の本公演ご降臨。いつぶりなの?ってWiki先輩に聞いたところ、2009年の雪組さん『風の錦絵』以来なんだね。お芝居でのご降臨では2008年の宙組さん『黎明の風』の白洲次郎以来。研30にほど近くなられても遜色なく主演を張られるその美貌とバイタリティには頭が下がります。でも本公演へのご降臨はそろそろお控えいただきたいのも本音。中には短い任期の中トップを務められる方もいらっしゃるんだし、組のトップスターという立場を揺るがすべきではないと思うんです。宝塚のトップスターはいつでも主演。中心。でないといけない。そう思います。もちろん轟さんは専科ではいわゆるトップスター的なお立場だと思うので、専科公演という形で、もしくは各組二番手以下を率いての外箱で主演を張る分には異存はございません。今回の『The Lost Glory』もダブル主演的に描かれているのだとは思うのですが、やっぱりどう見ても轟さん主演、柚希さん二番手ですよねこれ。

っていう思いもありながら、ちえさんくらいの任期ならば間に一回ご降臨いただくのもいいのかなー、とも思う。だってトップになったらなかなか見れない悪役を見れるんだよ。ちえさんファンもきっといろいろ思うところはあったかもしれないけど、こんなかっこいい悪役トップになったらなかなか見れないからね。そういう意味では良かったんじゃないかな。第一次ご降臨のときみたいにショーまでトップ扱いで出てパレードにナイアガラ羽根がふたり並ぶ、なんてことも今回はなかったみたいだし。

 

トップスター退団のプレさよなら本公演で景子先生×稲葉先生の作品。という意味では『舞音』『GOLDEN JAZZ』と同じなんだなーと思いながら観ました。だから何ってわけではないけど。

幕開きからニューヨークの高層ビル群の夜景を思わせるようなきれいなセット。景子先生には松井るみさんですね。音楽は太田先生。太田先生の曲は良くも悪くも芝居を殺さないというか控えめですよね。観終わったあとにあまり曲が残らないというか。私は芝居における曲というものは芝居自体の良し悪しを決める大きなファクターのひとつだと思っているのでちょっと物足りないです。甲斐先生みたいな壮大な曲を入れてほしいなー。

ストーリー的にはシェイクスピアの『オセロー』を題材として描いている話。禁酒法時代のニューヨーク。1929年ということで『舞音』と全く同じ年の出来事なんですね。インドシナで民族運動が勃発しそうな時にニューヨークでは株の大暴落が起こってたってことか。建築会社の社長オットー(轟)の後釜を狙うイヴァーノ(柚希)の望み届かず逆恨みしたイヴァーノが新会社社長に任命されたカーティス(真風)やオットーの妻ディアナ(夢咲)を愛するロナルド(紅)を騙しオットーを経済界から引きずり降ろそうとする話。『オセロー』では殺し殺されで主要人物ほとんどが死んでしまう悲劇だけどこちらは死ぬのはイヴァーノだけ。ラストもちょっと感動的な仕上がりになっています。

説明セリフが冒頭からばんばん入る。でもまあそれで登場人物の人となりがなんとなくわかるから使い方間違えなければ文句はないんだけど、ちょっと不自然さが出てしまって、舞台上で「脚注」を見ている気分。でも全体的には破綻もないし好きですこの作品。相変わらず娘役の活躍できる場面が少ないけど。

衣装はアルマーニが提供しているんですね。さすが男役陣の着るスーツが悪い意味での宝塚臭さがなくて洗練されていてかっこいい。そういう色目で見ているからかなー。もうビジュアル的に轟さんも柚希さんもオトコだからね...あのビジュアルであのスタイルに着られたらアルマーニも提供し甲斐があるってもんです。

 

オットー・ゴールドスタイン(轟悠)。もともと人がいいんだよね。建築王にまで昇りつめたのもその人徳ゆえのこと。だからまあイヴァーノにおもしろいくらいに騙される。愛し合って結婚した妻のこともすっかり疑いの目で見るようになって。でも当のイヴァーノのことは最後の最後まで信じている。妻の愛を信じられなくなって苦悩する姿がすごく色っぽくてよかったです。最後イヴァーノにすべて暴露されてもなおイヴァーノを責めず自責の念に駆られる始末。でもだからこそすべてを失って落ちぶれても人は離れていかないんだなーという説得力がありました。

 

イヴァーノ・リッチ(柚希礼音)。ストーリーテラー兼悪役という言ってしまえば二番手役。でもトップスターが悪役に徹するのいいですね。なんかちえさんも心から悪役を楽しんでそうな雰囲気。黒いスーツが似合っていて野望に燃える目ヂカラがすごかった。これファンの方たまんないんじゃない?ちょっとスカピンにおけるショーヴラン風味あるよね。役的に。最後すべてを暴露しロナルドに撃たれ瀕死の状態でオットーの使用人サム(美城れん)に「オットーは会社をあなたに譲るつもりだった」言われてコロっとほだされてしまう感じはちょっと無理があった気がするけど。まあ死の淵だったからかなあ。

 

ディアナ・ゴールドスタイン(夢咲ねね)。いい役。上流階級の大金持ちの娘でどれだけその結婚を反対されようがオットーの人となりを愛し、イヴァーノの陰謀の中でどれだけオットーに蔑まれようが、最後オットーがすべてを失ってもなおその愛はまったく薄れることはない。途中、オットーの幻想場面で真っ赤なミニドレスでいろんな男たちとなまめかしく踊る場面もあって美味しい役だなーという印象。しかしねねちゃんナポレオンの頃から?だいぶ歌うまくなったよね。退団直前でやっとかい、とも思うけど人ってここまで成長できるんだね。せめてあと5年はやく成長して欲しかった。くらいには歌が上達しててびっくりしました。

 

ロナルド・マーティン(紅ゆずる)。この陰謀に一番関係ないのに一番嵌められてしまって最後一番の不幸を抱えてしまう人。ただディアナに見合う男になるためだけにイヴァーノの言うことを全部信じて結局自爆してしまう。ちょっとあか抜けない、でもずっとディアナを忘れられない怖いくらいの一途感とか主要キャストとガラッとちがった雰囲気で目立っていました。紅さんも一時期よりは歌うまくなりましたね。あくまでも本人比ですが。

 

カーティス・ダンフォード(真風涼帆)。しかしみんなしてイヴァーノを疑わないところをみるとみんな人がいいのかイヴァーノが上手いのかどっちなんだろ。ってくらいにはこの人もすっかり騙される。「誘ってくれて嬉しかったよ。僕のことよく思ってないと思ってたから。」とか嬉しそうに言ってるし。これから陰謀のコマに使われるってことも知らず。真ん中わけの髪型ちょっと似合ってなかったけどあれは役作りなのかな。いい人なんだよー、っていう。

 

オットーの使用人サムを演じた美城れんさん。屈指の役者だし歌もうまいのにあまり使われてなかったのは残念。さやかさんファンとしては。でもいい役。最後オットーとの別れの場面で息子を紹介するところ、泣けました。ああいう役はさやかさんだよね。

街の靴磨きを演じた礼真琴さん。株の高等暴落の悲喜こもごもを表す役どころなんだろうけどまあ歌わす歌わす。景子先生はどうも人ありきで過剰な演出をしてしまう嫌いがあるように感じます。うまいから歌わせるのはいいんだけど話の流れをぶったぎってまで真ん中でピンスポ当ててまで歌わせなくてもいくらでも歌わせ方はあるだろうに。いや、さすがの琴ちゃん、うまかったけど。

好きだったのはオネェの宝石商を演じた壱城あずささん。この人どうもこういう役どころ回ってくるよね?気のせい?出番はほんの少しだったわりにはすっごい印象に残る役。

 

しかし3発?も撃たれてなおひととおりのセリフを話しやっと息絶えるのってやっぱり宝塚ですね。そういえばちゃぴも1発だけどそうとう生き延びて一通りしゃべってから息絶える。そう思うとロナン...どんまい。と思う今日この頃であります。