愛あればこそ

愛あればこそ

宝塚愛をこじらせたヅカヲタの戯言

花組さんちのコンビがうまいこと調理されていてたいへん美味でした ◆ '17・花組『金色の砂漠』

トラジェディ・アラベスク『金色の砂漠』
宝塚大劇場 2016年11月11日~12月13日東京宝塚劇場 2017年1月2日~2月5日
作・演出/上田久美子
作曲・編曲/青木朝子 音楽指揮/上垣聡
振付/前田清実・KAZUMI-BOY・鈴懸三由岐
主演/明日海りお・花乃まりあ

 

金色の砂漠

奴隷と王女の恋ってどこの『DRAGON NIGHT!!』だよ...わかば王女とセクシーに絡んでた奴隷なシャカラカベイベーまさおちゃんあれは実に素晴らしかった...奴隷のくせにきらっきらしすぎだしだいいち縄で両手縛られてるまさおちゃんとかほんと誰得だよああ俺得だよ悪いか!!?!(逆ギレ)...くらいにはさいこうなやつでしたけど一転してこちらの奴隷と王女はどうやらいろいろと業が深そうなやつでした。

上田先生は『月雲の皇子』『星逢一夜』と生で舞台を観て来てなんかこう、星逢は特になんだけどイヤミスっぽいすっごい重たいもやっと感が残ってしまって、これから中日で再演するし作品の質としては素晴らしいことは重々わかりながらも上田作品にちょっとアレルギー反応を起こしてしまっていた自分としては今回の作品もあまり乗り気ではなくすっごい後ろ向きに観劇したってのが正直なところです。じゃあ観るなよって声が聞こえてきそうですが(すみません)、花組は『カリスタの海に抱かれて』以来観てなかったし花乃ちゃん辞めちゃうしなのでこれは観ておこうと思った次第であります。だから、ってのもあるとは思うんだけど、今回はとても...とはやっぱり言えないけどまあまあ良かったです。たぶん上田先生の描かれる独特な内向する世界観がみりおには合ってるんだろうなー。

あと上田先生の作品はきっと、すっごく考えさせられる作品だけどすっごく考えて観てはいけないんだと悟りました。細部にまで拘りぬいたプロットがあってそれを綿密に練り固めて脚本に落としていってるであろう上田先生のインテリジェンスさは素晴らしいと思うんだけど、演出という段になるとその脚本やストーリーを的確に表現するよりも自身の哲学というか美的感覚を押し出したい自己顕示欲が勝ってしまってだから途端に話の展開にほころびが出てきてしまう(っていう私の勝手な結論)。でもそれは舞台芸術としてはいけないことではきっとなくて、「観て、感じて、楽しむ」という本来の舞台の楽しみ方という意味では紛れもなく素晴らしく満足できるものです。ストーリーを事細かに理解したいのなら本を読めばいいわけで、わたしたちは生の舞台を観ているんだし。

そうやって深く考えずに観てみるととってもいい作品でした。どことなく『ハムレット』と『月雲の皇子』と『暁のローマ』がブレンドされているみあったけど観客の舞台への引き込み方は上手だし屈折したみりおと勝ち気なかのちゃんっていう、最大限にその素材の持ち味を生かして調理してくれたおかげで大変美味しい、満足のいく逸品になったと思います。

一条ゆかりさんの漫画にありそうなせつなくて苦しいお話だよなーと思ったところで『砂の城』みりおに演って欲しいわー両フランシス演って欲しいわーとすっごい自分の中で盛り上がったんだけどまた長くなるので今は置いておきますね。上田先生だとまたこう気持ちが重くなりそうなので小柳先生あたりに描いてもらえるとよいかも。劇団にお手紙でも書いておけばよいのよね?(真顔)

 

ということで、公式ホームページのあらすじ。

昔々、いつかの時代のどこかの国。砂漠の真ん中にあるその王国の王女は、“ギィ”という名の奴隷を持っていた——。

自分がどこから来たのかも知らず、王女タルハーミネの奴隷として育てられた少年、ギィ。常に王女に付き従って世話をする彼は、長じるにつれ、美しく傲慢な王女に心惹かれるようになる。ギィを憎からず思うタルハーミネではあったが、王女の立場と何より彼女自身の矜りが、奴隷を愛することを許さない。タルハーミネはわざと高圧的な態度でギィを虐げる。奴隷でありながら矜り高いギィは、そんな王女を恋の前に屈服させたいと激しい思いを募らせる。ギィの怒りにも似た愛は、やがて報復の嵐となってタルハーミネと王国を呑み込んでゆく——。

架空の古代世界を舞台に描き出される、愛と憎しみの壮絶なアラベスク。  

時代設定も国も明らかにしないそのミステリアスさと“砂漠”という計り知れない果てしなさや儚さがメインキャストのリアル感を消している中で、たったひとり地に足がついている(と私が思った)のが柚香光演じるテオドロス。良くも悪くも人間くさい役で観ているこちら側を現実に引き戻してくれたし、そういう意味でいいスパイスになっていたと思います。そう、全体的にリアル感のない砂で描いたような、風が吹けば一瞬で何もなくなってしまうようなお話だったから前回のようなもやっと感が少なかったのかもしれない、と今これを書いてて思いました。

『暁のローマ』でいうところのきりやん的ストーリーテラーな役どころのキキちゃん。第二王女の奴隷ながらお互いに恋してお互いを思いやる基本ほっこり担当でした。後半はちょっとつらい展開になったりもしてたけど話中の役を演じながらのストーリーテラーってきっと難しいと思うのにそこはちゃんと切り替えて演じててキキちゃんすっかり立派な二番手さんだね...しばらく見ないうちにおっきくなって...くらいにはわけわからん親心発動しました。

王女三姉妹がこれまたみんなかわいくて萌えました...長女かのちゃんの息を飲むほどの美貌っぷりはもちろんのこと次女ベーちゃんのかわいさが天使過ぎて思いがけずオペラ対象だったし三女くり寿ちゃんのやんちゃでキュートなお姫さまっぷりには目じりが垂れっぱなしでした。

ところで、テオドロスとの婚礼前夜と王を殺害してタルハーミネを奪還した時のギィとタルハーミネのデュエダン。あれを考えた上田先生とそれを形にした振付の先生(誰?)は最大限に褒め称えたいです。素晴らしい。宝塚歌劇という強硬なすみれコードの隙間を掻い潜り見事に性の営みを体現したあのダンスにはほんと震えました。一度目のまだ幼さの残る甘いダンスと二度目の愛憎にまみれた貪欲なダンス。直接的に表現されるより何倍もえろくてさいこうでした。

そしてデュエダンと言えばフィナーレのトップコンビのデュエダン。明日海りおと花乃まりあの短くもきっと深かったふたりの集大成でもあるし、ギィとタルハーミネの死してやっと幸せに結ばれたイメージでもありました。大階段に折り重なるように伏した(死した)ふたりからの真っ白な衣装で幸せそうに踊るダンスと、ラストは幼少の頃に戻ったかのような大階段でのかわいらしい駆け引き。そしてふたりは天に召されていく。明日海りおが花乃まりあを新しい世界へ導き送り出す。そんな、役と中の人がうまく融合したとても印象的で美しいデュエダンでした。和物ショーがあったおかげで芝居にフィナーレがついたからこその美しい完結。そう思うと二本立の組み合わせも大事なんだなー。

 

花乃まりあ。96期生で特に矢面に立つことも多かった彼女は大劇場での挨拶のように雨続きの宝塚生活だったかも知れません。でも今、目の前で幸せそうにめいっぱいの光を解き放っている彼女は本当に美しいし役者としても人間としても成長した姿がそこにはあって、だからこそこれからの人生は前を見据えて堂々と突き進んでいって欲しいです。ほんとこれが退団オーラと言うものなのかと思うくらいにはあまりにも美し過ぎました。花乃まりあのこれからに栄光あれ!

 

 

 

あーーーー、あとこれだけは言ってもいい?

 

 

 

タソ結婚してくれーーーー!!!!!