愛あればこそ

愛あればこそ

宝塚愛をこじらせたヅカヲタの戯言

上田久美子センセがわたしの中で一気に急浮上しています ◆ '17・宙組『神々の土地』

なんだよウエクミやるじゃんかよーーーーー!!!くらいには素晴らしい舞台でした。プロットは完璧、なんだけど脚本におこすところで作り込み過ぎてちょっと押し付けがましさが出つつも結局は読む人を惹きつけるような緩急あってツボをついた本、だけど読了(観劇)後になんとなく残る息苦しさともやもやしたイヤミス感。そしてそれらを箱の中に表現しようとした途端に箱の美しさばかりを求めて空間を活かしきれていないようなもったいなさ。そんな巧みがゆえにかえって浮き出てしまうような不満を今までこの演出家に持っていて、別箱は比較的良かっただけに総じてこの人はきっと大劇場には不向きな人なんだろうなーと思っていたんだけど、大劇場3作目にしてついにとうとうat lastやってくれました。こうなってくるともうウエクミ急上昇inわたし、です。

 

1916年、ロシア革命前夜。帝都ペトログラードで囁かれる怪しげな噂。皇帝ニコライ二世と皇后アレクサンドラが、ラスプーチンという怪僧に操られて悪政を敷いている——。折からの大戦で困窮した民衆はロマノフ王朝への不満を募らせ、革命の気運はかつてないほどに高まっていた。 皇族で有能な軍人でもあるドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフは、皇帝の身辺を護るためペトログラードへの転任を命じられる。王朝を救う道を模索する彼にフェリックス・ユスポフ公爵がラスプーチン暗殺を持ちかける。時を同じくして、皇帝から皇女オリガとの結婚を勧められるドミトリー。しかしその心を、ある女性の面影がよぎって… 凍てつく嵐のような革命のうねりの中に、失われゆく華やかな冬宮。一つの時代の終わりに命燃やした、魂たちの永遠の思い出。

 

f:id:whea-t:20171028131049j:plain

大戦からのロシア革命という時代背景のなかで綿密に練り固められた脚本と様々な登場人物が織りなす少し複雑なストーリーはやっぱりわたしの頭には一度では理解しきれなくてだから一度目の観劇では(まあ...よかったんじゃない?かな?)くらいな感想だったんだけど、二度目の観劇をしてすっかり堕ちました。結ばれない恋も、愛した人たちの死も、どうしようもできない時代背景や自身の立場のなかで思い悩みながらでもあえて望まない方向へ自らの決断によって進んでいく...そんな、そこに息づく人々の迷いあがいた結果の迷いのない意思、みたいなものを感じて、どちらかというと悲しい結末なのにすうーっと摩擦なく心の中を通り過ぎていくような温かみすら感じました。

宝塚らしい品と艶感のなかで描かれる男女の機微や男の友情なんかが全般的にそこはかとなく往年の柴田センセみを感じたし、トップ娘不在という宙組の体制をうまく利用したキャスティングはこれぞ当て書き、と思うくらいには絶妙でした。でもまあこの作品のヒロインはやっぱりうららなわけでそう思うにつけやっぱり一作だけでもトップ娘として階段降りをさせてあげたかったよおおおなんでダメだったんだよおおお...くらいにはあまりにもイリナが美しすぎて神々しかったです。『翼ある人々』でも思ったけど、まぁくんとうららけっこうお似合いなのになー。

 

そして大劇場のあの広い板の上にただ薪火だけを置いた舞台はむりやり余白を潰しにきていた以前の作品とは違ってその余白をあえて活かしにきている余裕すら感じたしかえってそこからずっと続く雪原や山々が見えるような気がして、作品の中で唯一「神々の土地」を視覚的に表現する場面だと思うとウエクミの表現力演出力の高さに鳥肌すら立ちました。今までの(特に大劇場の)ウエクミ作品はどちらかというと画で見るより文字で読みたいイメージだったけど今回は文字だけで存分に楽しめる本にさらに色と温度を足して三次元的に膨らませていったかのような舞台で、見せられた画そのものがあまりにもさいこうなやつでした。なのですっごいもう一回観たい欲に駆られているのをなんとか抑えているじゃすとなうです。

そしてきっといつか、この作品が再演されることを願って止みません。まぁくんのサヨナラということで、ちょっとニガテな演出家だけどでも今までずっと見てきたまぁくんの集大成を見届けようくらいの気持ちで座った客席だったけど、まさか上田久美子という人にここまでノックアウトされることになろうとは...いや、嬉しすぎる誤算でした。

 

ということでキャストでも語っておこうと思います。

 

太后マリア(寿つかさ

なんなら一番ニンに合ってなかった?威厳とカリスマ性を兼ね備え息子の更迭さえをも厭わない冷血非道にも見える皇太后が孫娘にだけ見せるただの祖母としての優しさがすっごい沁みるやつでした。ふだんは路線組長として男役の色気をダダ漏らしているすっしーさんだけど、もともとの品のあるお顔立ちからしてこういうお役もすっごい合ってますよねー。ほんと、お美しかった。

 

ラスプーチン(愛月ひかる)

愛ちゃんwwwwすぎょいwwwwww でも頭の片隅にまさきちゃんのラスプーチンが勝手に浮かんできてしまって、なんならぜったい愛ちゃんよりもすごいことになる気しかしなくて抱腹寸前でした(愛ちゃんごめんなさい)。どうやら一説によるとラスプーチンがここまで崇拝されていたのはかなりの巨○の持ち主だったことが理由らしくて、そう思うとそっかアレクサンドラも侍女らしき狂信者のふたりもラスプーチンの○根の虜だったのか...と思いながら愛ちゃんを下素顔で見てしまっていました(愛ちゃんごめんなさいPart.2)。しっかし、「殺しても殺してもなかなか死なない選手権in宝塚」で暫定1位に輝きましたね...撃たれて撃たれて撃たれて斬られて斬られて斬られて刺されて刺されてやっと...くらい?愛ちゃんほんとしぶとい(役名で)。

 

皇女オリガ(星風まどか)

ちょっと気が強くてでも恋には不慣れな幼い皇女、ってのがやっぱりまどかちゃんのニンに合っててかわいかった!酒場で家族の悪口から逃げようとしつつもドミトリーに諭されて一気にまくしたてるくだりは生まれ持った品と気位の高さも出ていて上手かったし面白かったんだけどでもドミトリーに恋をして、その恋に破れて、ついにはドミトリーを売るに至るその心の痛みと、最後に母であるアレクサンドラ皇后をまるで自分が母であるかのように大きく包み込む諦めと慈悲が入り混じったようなオリガの姿にすっごく打たれました。次期トップ娘役、頑張ってほしいです。

 

大公妃イリナ(イレーネ)(伶美うらら

うららの背中の美しさはどうやって言葉にしたらいい???ショーでも存分に見せてくれたけどあのシンメトリーな肩甲骨からなだらかにおちていく背中のラインとその吸いつくような美しい肌がさいこうのやつでした。せーこさんから「美しいものは見ることに価値がある(ニュアンス)」的に言われていることにあまりにも説得力あり過ぎて、ほんとうに今回のうららはそこに居るだけで惹きつけられるし見ているだけで満たされるようなあまりにも美し過ぎる美でした。ドミトリーを愛して、ドミトリーから愛されているのに決して叶わない恋。そんな憂いを帯びた大人の女の表情が秀逸過ぎるやつで今ここでうららを失うことへの劇団の損失を嘆きたいくらいには辞めるのやめなよーと心の中で叫ばずにはいられないやつでした。ただ、いくらニガテだからといって一切歌わないのはどうなんだよーとは思ったけどまあ作品全般的に歌少なかったからよしとします。

 

フェリックス・ユスポフ(真風涼帆)

ドミトリーの親友的存在でちょっと三枚目的な役どころがどこかメラコリのスタンを彷彿とさせられたけど、でもあんなお調子者でもなく、クーデターの首謀者のひとりとしてそこにドミトリーを引き込もうとする強い意志も垣間見えたし冒頭のセリフからきっとフェリックスもイリナのこと好きだったんだよね?と匂わせながらもドミトリーとイリナの叶わぬ恋を後押しするところにはドミトリーへの友愛を感じるやつでした。革命下のロシアから逃れて亡命した先でちゃっかり商才を発揮しているところなんかは、結婚したい人No.1にしたいくらいには世渡り上手なデキる男だったしあとは歌がもう少し歌えたら...どうしてもここで引っかかってしまう...次期トップゆりかさん、お歌がんばってくださいー!切に!期待してます!

 

ドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフ(朝夏まなと

まぁくんの軍服は美の真骨頂みたいでこれぞ男役を16年務めたトップスター朝夏まなとの集大成とも言えるドミトリーでした。みりおんが一作先に辞めてやもめになったまぁくんだったけど結果うららと大劇場でがっつり組めたことは最後にしてさいこうの宝になったんじゃないかなーと思うくらいにはうららとの絡みが美の極み過ぎて客席から見惚れるばかりでした(無力)。誠実で、真面目で、友を愛し、義を貫く。そんなドミトリーが中の人と丸被りだったしイリナへの密かな恋があまりにも紳士的で泣きました。駄作が多いと言われる退団公演のなかでこんなにも素晴らしい作品に、役に出会えたまぁくんの選ばれし感が最後にしてすごかったです。朝夏まなとというトップスターの存在がもうすぐ過去のものになろうとしているということがなんとなくまだ違和感...まぁくん、辞めちゃうのかー。残念。だけどこれが宝塚だもんね。仕方ない。

 

 

*****

ラスト、ロシアを生き抜いた人たちが走馬灯のように流れていく場面はちょっと『1789』のラストみがあって懐かしくもあり死してしまったオリガが笑顔で出てくるところは泣かされるやつだったのに下手からマントを翻してドヤ顔で踊りながらさっそうと出てきたラスプーチンな愛ちゃんがやっぱり場を掻っ攫っていくやつでした(笑)

 

そして緞帳が下りるなか一歩ずつ互いに近づいていくドミトリーとイリナのその余韻がたまらなく好きなやつだったので、おそらくはこの作品が「ベストオブわたしin2017」に輝くようです。まだ2か月あるからわからないけど。

 

 

ミュージカル・プレイ『神々の土地』

宙組公演『神々の土地』『クラシカル ビジュー』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

宝塚大劇場 2017年8月18日~9月25日/東京宝塚劇場 2017年10月13日~11月19日

作・演出:上田久美子 / 作曲・編曲:青木朝子・高橋恵 / 音楽指揮:佐々田愛一郎(宝塚大劇場)・塩田明弘(東京宝塚劇場) /  振付:前田清実・桜木涼介・鈴懸三由岐 / 擬闘:栗原直樹 / 装置:新宮有紀 / 衣装:有村淳 / 照明:勝柴次朗 / 音響:実吉英一 / 主演:朝夏まなと

 

 

wheat.hateblo.jp