愛あればこそ

愛あればこそ

宝塚愛をこじらせたヅカヲタの戯言

91期コンビにはMVPを差し上げたく存じます ◆ '17・星組『ベルリン、わが愛』

サイレントからトーキーへ、ってことで脳裏に『SLAPSTICK』が浮かんだんだけどあちらはコメディ、こちらはミュージカルを追い求めるものがたり。

サイレント映画からトーキーへと移り変わる頃──。1920年代から30年代にかけて、ハリウッドと並ぶ映画の都として栄華を誇ったドイツ・ベルリンにも、ナチスが暗い影を落とし始めていた。そんな中、新しい娯楽作品を模索する男達は、ミュージカル映画こそ大衆が求めるものだと確信し、その実現へ向けて邁進していた。無名の踊り子を抜擢し撮影された映画は大成功を収める。しかし、プロパガンダとして映画を利用しようとするナチスの圧力は強まる一方だった。理想と現実の狭間で苦悩しながら、映画を愛した彼らが描いたシナリオとは…。 激動期のベルリンを舞台に、「映画」を愛した人間たちの姿を、運命的なラブロマンスを織り交ぜながらドラマティックに描き出すミュージカル。

 

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ストーリーが淡々と進み過ぎていて途中ちょっと睡魔に襲われたりはしたけどでも総じてわかりやすくてまあ良き作品だと思います。ただちょっと、ナチスの絡み方が浅かったようには思えました。ナチス陣の使いかたが中途半端というか、1年以上ぶりに満を持して大劇場に出演したカチャの大いなる無駄遣い感がハンパなかったのは否めなかった。いずれにせよ夢を追う主人公とユダヤ人の恋人、そしてナチスの迫害...っていうのがどっか『Je Chante』みがあって原田センセってこういう政治的障害のある恋、みたいな題材がお好きなのでしょうか。

冒頭のあれ中階段?くらいのセットを試写室の座席に見立ててそこに観客がずらりと並ぶ姿は壮観だったし、こちら側がスクリーンという体でスクリーンに映る映像を演者に当てるライティングでうまく表現している感じがすっごくうまくて好きなやつでした。そしてフィルムを模ったセットが全般的にちょっと暗いのが残念だったりはしたけどでもとてもきれいでした。松井るみさんはその作品を象徴する“モノ”をうまくセットに入れ込むのが上手ですよね。『愛と革命の詩』の翼しかり、『舞音』の竹しかり、最近で言えば『ハンナのお花屋さん』の花しかり。この作品ではそれがフィルムで、舞台の左右にころしている8ミリフィルムのセットと場面ごとに入れ替わる吊りものや柱仕立てのセットの使いかたが秀逸でした。

イムリーなところで言えば雪組さんのジャコバン党もだけど、ナチスもそのカリスマとも言えるダークな存在感からして宝塚で扱う“悪”としてはジャストミートだと思うしだからこそここまでいろんな作品で取り上げられているんだと思うんだけど、いや何が言いたいかってナチスの指導者ゲッベルズを演じた黒づくめなカチャがほんっとかっこよかったってことが言いたいんですけどね...なんか途中「悪のダンス」みたいなのがあったんだけど黒ずくめのあの頭身がわたし好みのさいこうにかっこよいダンスを踊ってくれているのがもうこれ今年一年頑張ったわたしへのご褒美かしら???くらいには悶えました。わたしほんっとうにカチャのダンスが好きみたいです。凪七瑠海ダンスリサイタルみたいなのがあったらわたし全通くらいの勢いで通うと思うわーマジで。

あとはみっきぃ&はるこの91期コンビが今回はいろいろと掻っ攫っていった感じでしょうか。ふたりには本作品のMVP賞をあげたいと思います(勝手)。そしてそれに反して本公演で退団するしーらんの扱いがイマイチだったのが...すっごく悔やまれます。同じく退団するぽんちょのジョセフィン・ベイカーはすっごい良かっただけに。

 

レーニ・リーフェンシュタール(音波みのり)

ネルゾン劇場にジョセフィン・ベイカーをスカウトに来たテオに取り入ってテオが監督をつとめる映画のヒロインとして出演することになるんだけど、なんだかもういろいろとっ散らかってるのが一周まわってかわいいやつだった。脇役で出演したジルがその才能を開花させたが故に自身はヒロインの座を下ろされる羽目になるんだけど、まあそんな私利私欲のためだけにジルがユダヤ人であるという秘密をナチスに口外してしまう底意地の悪さと中の人そのものの美貌がその派手なメイクと相まって悪女感満載で素晴らしかったです。

 

ヴィクトール・ライマン(天寿光希)

みっきぃってこんなにエェ声してたんですね...サイレント時代のベテラン俳優の役どころで、一度テオがトーキーにスカウトするも脇だからなのかトーキーだからなのかテオだからなのかちょっとよくわかんない理由で断ったくせに次の場面ではすっかりテオを信頼している模様だったのがまあ私が途中睡魔に襲われたからなのか、ちゃんと理解しきれていないだけなのか、まあわたし側の要因であることにはすっごい自信あるんだけど()でもちょっとわかりづらかったのは事実。久しぶりに訪ねたカフェでの女主人の語る昔話がこれまたエェ話で、半ば本気でヴィクトールに惚れそうになったわ...こういう渋くて色気のあるおじさんだいすきです(性癖)。

 

ヨーゼフ・ゲッベルス(凪七瑠海)

カチャほんっとにかっこよかった...ナチスの黒い軍服に鍵十字の腕章つけて銀橋渡るカチャ様素敵でした。プロパガンダ的にジルを使おうと思ったのはその実力を買ってのことかと思いきや実は個人的にジルを手に入れたかったのね...ってのがわかってちょっとゲッベルズが可愛くも見えました。そんなゲッベルズが自室でジルを無理矢理犯そうとするそのぎりぎりのところで助け舟が入るってのはちょっと『ルパン』のトニー・カーベットみがあったけどジルだって例の「悪のダンス」見た後だったらこれ靡いてたかもしれないよ???ってくらいにはあのダンスさいこうでした。同じダンスをまさきちゃんが踊ったらどうなるんだろう...という安定的な疑問はまあ結果が思い浮かぶくらいにはわちゃわちゃしていたのでとりあえずここは置いておきますwwww

 

エーリッヒ・ケストナー(礼真琴)

すっかり二番手さんなんだね、ことちゃん。っていう割にはあまり役どころとして重要さがなかったように思いました。絵本作家だけどテオに誘われて映画のシナリオを書くようになるっていうテオの友人役なんだけどありがちな二番手男役がする主演の友人役というにはちょっと人物描写も背景も出番も薄かったように感じました。そして歌の比重もあまり大きくなかったのは宝塚屈指の歌うま、ことちゃんという意味ではもったいなかったけどでもその役どころと役の比重からしてちょうどよかったとも思えたので、展開も流れも無視して歌えるやつにただ歌わせにいく景子センセとか景子センセとは違って逆に好感が持てました。

 

ジル・クライン(綺咲愛里)

あーちゃん生で観たのって『ガイズ&ドールズ』の新人公演以来だったんだけどそう思うとだいぶお歌が上達されたのですね。サラは歌も芝居もぶっちゃけて言えば酷かっただけにトップ娘の立場になった彼女の行く末がちょっと心配だったりはしたんだけど(余計なお世話)立場が人を成長させるのか、すっかり芝居も歌も(彼女比では)良くなっていて少し安心しました。綺麗だけどいつでもちょっと自信のない引っ込み思案なお嬢さんが主人公に見い出されてナチスの迫害に立ち向かいながら女優として自己を確立し主人公との恋も成就させる、っていうザ・ヒロイン的な役どころだけど、劇場場面ではジョセフィン・ベーカーが、映画の場面ではレーニが目立っていたが故にちょっとトップ娘役としてはこちらもことちゃん同様役どころが薄かったように思いました。

 

テオ・ヴェーグマン(紅ゆずる)

そのスタイリッシュさと立ち姿がすっかりトップさんで見惚れました。ただ相変わらず滑舌が悪くてセリフの大半が何を言っているのかわからず...だったのがちょっと残念。時代背景やジルがユダヤ人であることを知ってもなおカラッと明るく映画への情熱を絶やさないその感じは前向きさとKYの紙一重にも思えて、中の人の本質が出すぎちゃった感もちょっと否めませんでした。すっごい簡単に映画界で成功してすっごい簡単に恋人も見つけて、最後はすっごい簡単にハリウッドへ行っちゃったように見えたのは脚本のせいなのかな...

 

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宝塚の作品って、見終わった後なんとなーくその主題歌が頭に残っていたりするもんだけど、今回は曲の印象もちょっと薄かったように感じました。ミュージカルって銘打つくらいならエェ曲聴きたいんだけどな......って不満ばかり言ってるように聞こえると思うけど、総じていい作品だったよ???説得力ない???

 

ミュージカル『ベルリン、わが愛』

星組公演 『ベルリン、わが愛』『Bouquet de TAKARAZUKA(ブーケ ド タカラヅカ)』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

宝塚大劇場 2017年9月29日~11月6日/東京宝塚劇場 2017年11月24日~12月24日

作・演出:原田諒 / 作曲・編曲:玉麻尚一 / 音楽指揮:佐々田愛一郎(宝塚大劇場)・清川知己(東京宝塚劇場) / 振付:麻咲梨乃・AYAKO / 装置:松井るみ / 衣装:有村淳 / 照明:勝柴次朗 / 音響:大坪正仁 / 主演:紅ゆずる・綺咲愛里