愛あればこそ

愛あればこそ

宝塚愛をこじらせたヅカヲタの戯言

自由であることをやめることはできないという呪縛 ◆ ’18・雪組『ひかりふる路』

ワイルドホーン氏の壮大な楽曲がほんとうに素晴らしくて、ワイルドホーンブランドの盤石っぷりを突きつけられた感のある観劇でした。こんな美しい旋律をこんな美声のふたりに歌われた日にはもうこっちは腹見せるしかないです。そんな中たいへん惜しむらくは、この壮大に広がる素晴らしい楽曲たちになかなかどうして釣り合わない生田センセの脚本ェ...各所から聞こえてくるこの作品に対する絶賛の声に反して、楽曲が素晴らしいから余計にわたし的にはちょっと不満の残る脚本でした。

 

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 18世紀末、フランス。立ち上がった市民達によって達成され、現代を生きる人々の生活の礎ともなったフランス革命宝塚歌劇においてもこれまで度々物語の題材として取り上げられてきたこの革命の中心人物の一人であり、理想に燃え、そして自らもまたその炎に焼かれた革命家マクシミリアン・ロベスピエール

 1791年9月14日。革命が始まって以来の宿願であった憲法が、ルイ16世によってついに承認される。国民議会議員として一大事業を為したロベスピエール達はパリ市民の歓呼の声に迎えられる。しかし憲法の承認は混迷する革命の、まだ序章に過ぎないものであった・・・

 志を一つに共に立ち上がった仲間達との絆、運命的なロマンス・・・その青春を賭し、理想に燃えた青年が革命の頂点へと邁進する姿を通し、彼が掲げた「自由・平等・博愛」に込められた思いを紐解き、人類の歩むべき路を問いかける歴史ミュージカルです。

 なお本公演は雪組新トップコンビ望海風斗と真彩希帆の大劇場お披露目公演となります。

 

 “自由、平等、友愛”。人民のための高い理想を掲げ、かつては師と仰がれた清廉な政治家が、果てはその理想を歪め、恐怖政治という名のテロリストに化し、最後には孤立し、自らを断罪し断頭台に送りこむ...という悲しい末路を描くストーリーにおいては、マリー=アンヌとの浮ついた恋の描写はどこか異物感を感じたというか、こういう暗くて切ないストーリーだからこそのエッセンスとしての恋愛描写はあってよいと思うんだけど...うーん、自分でも引っかかっている何かを説明するのが難しい(語彙力皆無)。

 サン=ジュストとの相関においてもちょっとサン=ジュストに操られている感が否めなくて、それはもしかしたら史実として間違ってはいないことなのかも知れないけれど、“主演”として据えた場合のロベスピエールの描き方としてはちょっと観ているこちらが混乱するようなもったいなさを感じました。だからロベスピエールが最後すべてに絶望して自らを粛清するというその決断も、ほんとうにロベスピエールの意思なのか、意思だったとしてももしかしてフラれたことでヤケクソになっているようにも見えて、総じてどこか「かまってちゃん」だったよね...マクシムくん。なんかイマイチ説得力がなかったなー全体的に。

 マリー=アンヌにしても家族を殺された復讐に燃えてパリに来たわりにはあっさりとロベスピエールに心奪われちゃうしだいたい恋人殺されたばかりでしょ!?みたいな惚れっぽい女感が勝(まさ)っちゃってて、復讐に燃える革命の犠牲者感みたいなものがすっごい薄かったように感じました。

 

 そんな中描き方としてすっごく良かったと思えたのはダントンで、彼の豪快さとマクシムとの決裂すらケンカにしてしまうその楽天的思想との根底にある本来の革命への純粋な思いや妻への愛、友への信頼、そんな人間味が断頭台に立つその時までブレずにあったのがほんとうにかっこよいダントンで、マクシムによって断頭台に送りこまれるその瞬間までマクシムを思うその思いが胸に刺さりました。

 

 

ガブリエル・ダントン(朝月希和)

 ダントンの妻。身体が弱いながらも鉄砲玉のようなダントンを母のような愛で包み、献身的に支える良き妻で、肝っ玉のすわったおかみさん的キャラクターがすっごくうまかった。ひらめちゃんは歌もうまいけど芝居も良いですな。路線としては少し厳しいのかもしれないけど、別格な立ち位置で上手く使われてほしい娘役さんです。

 

ルイ・アントワーヌ・ド・サン=ジュスト(朝美絢)

 あーさ素晴らしかった!ロベスピエールに心酔し、盲目的に崇めたてるその姿はあまりにも純粋過ぎて天使みたいだったし、だから余計にサイコ的恐怖も駆り立てられるやつでした。どんな時も正しいと信じて疑わず、神と崇めたてるマクシムが自らを粛清すると公言した時の崩れ落ちるように落胆するサン=ジュストがもはやあまりにかわいそうで守ってあげたくなるやつ...

 

カミーユ・デムーラン(沙央くらま)

 コマちゃんはこれが退団公演です。わたしにとっては月組のコマちゃんだけどやっぱり雪組期間の長さをしたら今回雪組公演での退団はきっとコマちゃんにとって一番望んでいたことなんだろうなー。『1789』ではダントンを演じたコマちゃんが今度はカチャが演じたデムーランを演じる...月担からするとちょっと混乱しがちな配役だけど、リュシルを愛し、友を思うジャーナリストを好演していました。ダントンがロベスピエールとふたりで食事をすると言う場面、「これはマクシムと俺の問題だからふたりでいい」と言われたデムーランのちょっと淋しそうな表情がかわいくて、デムーランにはこの期に及んでなお、ダントンと同じようにロベスピエールも友なんだなーと思わされた瞬間でした。

 

ジョルジュ・ジャック・ダントン(彩風咲奈)

 ダントンは主要キャストの中では一番いい役だし美味しい役だと思うんだけど、咲ちゃんではちょっと力不足だったのかな...ぶっちゃけ咲ちゃんに二番手羽根背負わせるのは時期尚早だったんじゃ...と思わされる今回のダントンでした。『るろうに剣心』での斎藤一はそれなりに良かったんだけどなー。こんないい役、さいこうに演じないともったいないよ、咲ちゃん!でも、マクシムとの最後の晩餐の場面はなんとかマクシムの目を覚まさせようとするダントンのマクシムへの強い友情が感じられたし、ギロチンを前にしてなおマクシムを思うその懐の広さと豪快さにダントンの本質を見た気がしました。

 

マリー=アンヌ(真彩希帆)

 唯一命拾いした貴族の娘で家族と恋人を殺された復讐のためにロベスピエールに近づくも簡単にほだされて好きになっちゃう系女子でした。ワイルドホーンさんの壮大な楽曲を難なく歌いこなすのは想定内だったんだけど、芝居中の歌を役の心情を込めて時に強く時に悲しく歌うその技術がほんとうに素晴らしいと思いました。さすがこどもミュージカルで鍛えられただけある。特に涙を流しながら切なく歌う牢獄での歌は絶品過ぎて思わず泣かされました。

 

マクシミリアン・ロベスピエール(望海風斗)

 脚本にちょっとむりやり感があったものの、だいもんとしては恐怖政治にのめり込んでいく、そして反面本当の愛を知っていくという真逆な心情を併せ持つロベスピエールを好演していました。サン=ジュストに出会う頃までのロベスピエールは友に厚く人民の幸せを心から願う人間味ある人だったのに何が彼を狂わせてしまったのか...って思うとやっぱりこの作品ではサン=ジュストの天使の微笑みが浮かんできてしまうんだけど、冒頭でロベスピエールが歌っていた「自由であることをやめることはできない」という呪縛を自身に課してしまったが故に自由を失ってしまった男の終焉なのかなーとも思いました。

 

 

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 ロベスピエールといえばギロチン、というくらいにはセットにされがちなアイテムが今回は舞台上に一切出てきませんでした。代わりにギロチンの刃をほうふつとさせる斜めのラインが舞台セットにも衣装にもデザインされていて、それが逆に演者たちが無意識に革命の歯車にされている感があって震えました。ギロチンでの処刑の演出はホリゾントの赤く光る斜めラインとともに刃の落ちる音からの暗転、という手法を使っていたのはうまかったなー。このへんは生田センセのこだわりなのかな。

 

なんだかんだ言いつつもやっぱり楽曲はほんとうに素晴らしかったので、生田センセにはなんとか脚本を練り直していただいてまたいつか絶対にこれ再演して欲しいです。

 

 

公演CHECK

ミュージカルひかりふる路〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』

雪組公演 『ひかりふる路〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』『SUPER VOYAGER!』| 宝塚歌劇公式ホームページ

宝塚大劇場 2017年11月10日~12月25日 / 東京宝塚劇場 2018年1月2日~2月11日

作・演出:生田大和 / 作曲:フランク・ワイルドホーン / 音楽監督・編曲:太田健 / 音楽指揮:西野淳 / 振付:御織ゆみ乃・桜木涼介 / 殺陣:栗原直樹 / 装置:二村周作 / 衣装:有村淳 /照明:笠原俊幸 / 音響:大坪正仁 / 主演:望海風斗・真彩希帆