2018年2月の読書記録
2月の読書覚え。月でまとめることにしました。
東野圭吾「赤い指」
桜木紫乃「砂上」
わたしが今読み進めているこの物語が令央のデビュー作「砂上」なのか?と思わされる、まさに「現実と虚構が交錯する」感覚で読了しました。
母ミオの生きざまと娘であり妹である美利の全てを悟りどこか冷めた人間性の狭間で錯綜する思いを乙三のフォローでカタチにしていくサマは令央の生みの苦しみが伝わってくるようだったし、どこか掴みどころのない、だけどある意味強く心を掴まれる、そんなお話でした。
編集者である乙三の新人ハントっぷりが素晴らしすぎたしそんな乙三のクールな対応に怯みながらも最後まであきらめずに付き合った令央のナニクソ根性はやっぱりミオから受け継いだものなのだろうか...そしてその根性は自身が一人前になるまでカラオケ店にしがみついた美利にもきっと受け継がれているんだろうと思いながら、ミオー令央ー美利の不思議な三角関係に、すっごい冷めているのにすっごく濃い絆を感じたりもしました。
乙三とは真逆の位置から令央に絡む産婆の豊子はただの産婆という域を超えて三人の女に強く優しく絡んでいて、その理由を令央相手に告白していく節は若き日のミオの悲しくて強い人となりが豊子の言葉の向こうに見えた気がして切なくなるやつでした。
ひとつ判りづらかったのは、令央の勤務先であるビストロの店主・珠子がいざ令央が小説家としてデビューした途端に素っ気なく令央を解雇してしまった理由なんだけどどういうこと?剛と結婚させようとしていた相手が自分たちをも本の中に登場させて小説家デビューしちゃったから?うーーーん...と思いながらも、まあ全般的にはすっごい不思議な感覚の読了感でした。
蒼井碧「オーパーツ 死を招く至宝」
【2018年・第16回「このミステリーがすごい! 大賞」大賞受賞作】 オーパーツ 死を招く至宝 (『このミス』大賞シリーズ)
- 作者: 蒼井碧
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2018/01/18
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
ドッペルゲンガーってなんだか美味しそうだなーって思いながらも平凡な学生だった日常がドッペルゲンガーによって良くも悪くも打ち破られてでもそんな相棒と面白おかしく事件の謎を解いていく様は至極痛快でした。 独立した4つのストーリーかと思いきや最初の3つのストーリーで撒いた布石を4つめで上手く回収しにかかるその手法は新人としては天晴れでした。
いわゆるオーパーツ?場違いだったり出土が不明だったり時には魔力めいたモノがそれぞれの殺人事件の謎を説くトリックに使われるわけだけど、作者のその造詣の深さたるや...!もともとこの類がお好きできっとこういう題材の小説を書き続けてこられたんだろうなーと思うと今回の大賞受賞は納得。とは言いながら謎が解けて犯人が判明するまでの流れがあまりにも唐突すぎる気もしてもうちょっと焦らして欲しかったり(笑)。
『ミステリークロック』もそうだったけど、難解なトリックを鮮やかに解いていく系の小説はどうしても文字だけではそのトリックの細部を描ききれないからか(まあわたしの頭がうっすいとも言うが)どうしても理解しきれない部分が残るのが残念。ところどころに図解があったりはするし確かにそれはトリックを理解するうえでのすっごい助けにはなってるんだけど、それでもやっぱり。まあそれを言いだしたらこういう小説は成り立たないしなんだかんだ言ってもトリック解明モノは好きなのでこの辺でだまりますね。
これは今後シリーズ化していくのかなー?個人的には水月と古城(姉)との今後の恋の進展が楽しみでもあり。「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。
米澤穂信「いまさら翼といわれても」
おもしろかったー!
古典部シリーズらしいです。高校生が何気ない日々の事件を解決していく、そんないくつかの事件を短編で取り上げてるんだけど、古典部4人組がそれぞれのストーリーで一人称を分け合っているので同じ人物でも「折木」だったり「奉太郎」だったり「ホータロー」だったりするのでそれが同一人物だと気づくには少しタイムラグがあったけどかえってそれが面白かった。
卒業制作を通しての壮大なイジメを見抜いた奉太郎のたとえ周りの皆から誤解され孤立してもなおひとりの女子を守り抜くその騎士精神が素晴らしかったし、それは急に跡継ぎから解放されて「いまさら翼と言われても」と思い悩む千反田えるにかける言葉にも表れていて一見硬派でクールなホータローの優しさを感じてまじホータロー結婚して!?って思いました。
ところで「古典部」ってなにをやる部活なんですかね?古典部シリーズと銘打ちながらも古典部の活動については一切触れてない?よね???まあ、そういうところがこの作品のおもしろさでもあると思うんだけど、じっさい「古典部」ってあるんですかね?まああってもなんだかかたっくるしそうだし入ろうとは思わないんだけどw
切った張ったがいっさいない、高校生の平凡な日常の中で起こるミステリーがすっごく親近感とあたたかみがあって、短編どの作品も小気味いい読了感で、すっきり。
柚月裕子「孤狼の血」
まさかの!ガミさん!!!!!まさかそんな展開になるとは思ってなかったしだいたいからして主人公的な人物がそうなることはありえないのが小説においての常ではないの!?くらいには想定外過ぎて驚きだったしでもすっごい感情移入して泣いた......のにまさかそこからまだ更なるまさかの結末が待っていたとは!!!ラスト真相がわかってから今までのストーリーを振り返ると(あれが実は伏線だったのか...)と気づかされるところが多々あって鳥肌が立ちました。
ガミさんの突っ走りっぷりがえげつなくて怖かったし、ヤクザ社会との絡みもありえないくらい深すぎて最初はちょっと胸の奥に異物感残しながら読んでたんだけど後半過ぎた頃からは日岡はじめガミさんを取り巻く人たちのガミさんに対する“情”みたいなものがすっごく感じられてだからガミさんにも感情移入できるようになった...矢先のまさかのガミさんでまさかの日岡ででも本当のラストはすっきり!でした。日岡にはガミさんのようになって欲しいけどでもガミさんのようにはなって欲しくない。
ハードボイルド系はあまり好んで読もうとは思わないんだけど、ふと手に取って読んでみた結果のまさかのおもしろかったやつです。5月に映画が公開されるということで、バイオレンス物は映像で観るのはニガテなのでたぶん観ないと思うけど、役所広司さんのガミさんに松坂桃李さんの日岡はなかなかのキャスティングだと思うし真木よう子さんはあれでしょ?「志乃」のおかみ、晶子さんでしょ?と思ったら違うのか。晶子さんかなり重要なポジションなのにキャスティングされてないってことは映画版は描き方が少し違ってくるのかな?まあ、観ないけど...
伊坂幸太郎「AX」
ぜったいに犯してはならない罪だしそれを生業にしてさんざん罪を重ねてきたんだからその結末は至極当然...というだけでは片づけられない、主人公に対する作者のあたたかみとか愛みたいなものを感じずにはいられませんでした。
人を殺すことにはまったくの躊躇もない兜が妻の一挙手一投足に神経を張り巡らせおびえているサマは滑稽でもありでも決して手に入れてはいけないはずのどこにでもある普通のしあわせを兜なりのやりかたで感じようとしているような気もして、そもそもなんで兜はこの裏稼業に手を染めるようになったのか、それがすっごく知りたくなりました。
愛する息子があるからこその同じ息子を持ちその息子を失いかけようとしている奈野村への同情とこれまでやってきたことへの罰としてすべてを受け入れての自死。そしてそんな父の死の疑惑を晴らそうと十年後に立ち上がる息子の克己。そんな克己をクリーニング店主として陰ながら見守ってきた奈野村の兜への恩義がすっごく沁みるやつだったし、同時に奈野村がまだこの稼業を辞めていないことが少し悲しくもありました。
妻に怯えながらも実はそんな妻を愛し、また妻も夫の死後10年経ってもなお夫を愛し続けている...そんな関係性がすごく羨ましかったし、最後の兜と妻の出会いの場面の描写によって、外からはすこし異質に見えるけどでもふたりにとってはそれがお互いの愛の形であったんだなーと強く思わされました。
なんだか、せつないけどほっこりするような、不思議なおはなし。
*****
せっかく読書癖ついてきたのに3月からは読書タイムを別件に奪われそうでなかなか読めないかもしれないけど、別件だいじ。しかたない。