愛あればこそ

愛あればこそ

宝塚愛をこじらせたヅカヲタの戯言

家族の絆ってすっごく強くてすっごく脆い。◆ '18『FUN HOME』

 きっとこれってごくごく普通の家族の姿なのかもしれない。そうも思いました。客観的に客席から観ているからちょっと異質な家族に感じたりもしたけどでもきっと今私がその一員として属している家庭、家族となんら変わりないような気もして、だから家族ってなんだろうなーと考えさせられる舞台でした。

 

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すれ違う父娘の、別れと再生の物語

 主人公・アリソンはペンシルベニアの葬儀屋(Funeral Homeを略してFun Home)の長女として生まれ、今は漫画家として活躍しています。彼女は今、43歳。父ブルースが亡くなった時と同じ年齢に差し掛かっています。アリソンとブルースにはいろんな共通点がありましたが、一番は・・・アリソンはレズビアンで、ブルースはゲイだったこと。そしてアリソンはそれを受け入れ、父は隠し通す道を選び、自らの命を絶ったのでした。―なぜ父は自らの命を絶たなければいけなかったのでしょうか?

 セクシャルマイノリティとして、そして文学や芸術を愛する者として、共感しあいながらもすれちがい続けた父と娘。現在、大学生、幼少期それぞれのアリソンが、父との思い出をたどりながら、父の本当の想いに迫っていく、家族の再生の物語です。

 

 『FUN HOME』初日の舞台を観てきました。白シャツにジーンズ、メガネ姿のあさこさんがあまりにもかっこよくて痺れました。そしてたぶんあさこさん、幕開きとともに登場してから幕が下りるまで(と言っても幕というものは存在しなかったけど)ずっと板の上にでずっぱりだったからこれファンの人さいこうじゃないですか!?チケット代をあさこさんの出演時間で割ってみて?あまりにも激安過ぎて投げ銭したくなるやつですよね...これまさきちゃんなら間違いなく全通だわ(確信)。

 

 とはいえ、ストーリーはそれなりに社会性のある重い話で、ゲイな父親が娘からレズビアンであることをカミングアウトされたその4か月後に自殺をしてしまう、っていう話で、その自殺の理由がいったいなんだったのか、娘(アリソン)が思うように自分が衝撃のカミングアウトをしたからなのかそれとも他に理由があったのかはっきりとはしないままだったのがちょっと消化不良ではあったんだけどそれも含めて観る者を考えさせる舞台でした。

 

 あさこさん演じる43歳のアリソンが昔を思い出しながら漫画を描く、っていう体で幼いころからの家族の記憶を辿っていくストーリーなんだけど、決して時系列には進まずに幼少期と青年期がかなり交錯して話が展開していてだからそれぞれの演者が違うことでなんとかストーリーの混乱を避けられたんだけどもしかしてそれは演出家の作戦なのだろうか。

 父親のゲイな愛情表現だったり、自身がレズビアンであることに目覚めた大学生のアリソンの彼女とのベッドシーンだったり、なかなか刺激的で興味深い演出もありながらも大筋はひとつの家族の歴史を淡々と紡いでいく感じで進行するので途中ちょっと間延び感ありはしたんだけど、最後幕が下りた時にはなぜかすごく胸が苦しくなって涙が出ました。父と娘の飛行機ごっこ。そのバランスがふたりの心のバランスでもあるような気がして、最後に現在のアリソンが放ったセリフに泣かされました。こういう感覚は初めてのやつで、だからすっごい観てよかったです。

 

 

大学生のアリソン(大原櫻子

 一番大変なお役なんじゃないかな。レズビアンだと自身を認め、両親にカミングアウトし、彼女と熱いキスを交わし、ズボンを脱がされ、ベッドインする。これを毎公演観客の前でリアルに演るんだからな...そんなエネルギーと精神力使いそうな役をすっごい体当たりで演じててただただすごかった。

 

アリソンの母・ヘレン(紺野まひる

 まひるちゃん!舞台で見るのは現役時代ぶりですお久しぶりです。映像での活躍っぷりは見ていたけどやっぱり舞台で観るのは違いますねー。

 夫がゲイであることを知っているが故のヒステリックさと病的なくらいに家族の調和を気にするその細かさが若干狂気感生み出してて上手かったです。でもセリフ回しが少し滑舌が良すぎるのか滑らかさが薄くてちょっと耳にひっかかりがあったのが残念だったかな...

 

アリソンの父・ブルース(吉原光夫)

 わたしがこのあいだ観た時は囚人を捕えることに躍起になって最後には絶望して自らの死を選ぶ悲しきジャベールを演じていたのに今回はワイシャツにスラックスでメガネかけたお父さん演ってて吉原さんの振り幅の広さにびっくりしたんだけど、子供たちを愛しながらも自身の考えを曲げず子供たちに無意識に圧をかけていくお父さんで、そんな3人の子供を持つお父さんなのに実はゲイだった、っていう難しい役を難なく演じていました。

 元教え子男子を妻のいる家に連れ込んでなんとかして我がモノにしようとするその男性同士の絡みがすっごくリアルだったしブルースの彼への止められない思いがなんだかちょっと可愛かったりもしたんだけど、次に別の未成年の教え子を車中に誘い酒を飲ませてなんとかしようとするその感じは今度はあまりに人間が小さすぎて呆れました。でもそういう演技がほんとうに上手かった。死を目前にしてその律することの出来ない自身の感情を露わにして歌う歌があまりにも絶唱で、吉原さん本当に素晴らしかった。

 

アリソン(瀬奈じゅん

 あさこさんさあ...そりゃ今回はちょっとボーイッシュな役どころではあるんだけど、なんでそんなにかっこいいのですか...(もはや溜息)

 幕開きから自身と父の物語を振り返りながら舞台が進む中、時には傍観者になり時には過去の自分に入り込んでずっと舞台上で芝居するのはきっとすごく難しいんだろうなーと思いました。進行のほとんどが過去の自分たちが真ん中で演じているそれを主演として舞台の端からいろんな感情を表情や仕草だけで表しながら見ている、っていう演出だったからそんなんで約1時間半舞台に出ずっぱりなのは本当に大変だったと思うんだけどでも白シャツジーンズにメガネ姿のショートカットなあさこさんは本当にかっこよかった(二度目)。

 

 

*****

子供って、どんな扱いを親から受けてもどうしてなのか親のことが大好きですよね。アリソンも両親からストレスのはけ口にされたり親の考えを押し付けられたりしていつも両親の顔色を伺いながら生きてきた感じなのにそれでも父親を慕い、愛するその気持ちがすごく泣けました。

 親から子への無償の愛、っていうけど、もしかして実はそうではなくて子から親への無償の愛、っていうのが正しいんだろうなーとこの舞台を観てすっごく感じたし、わたしもひとりの母親として子に対するあり方を無駄に考えちゃったりもしました。

 まさきちゃんもいい歳してあいっかわらずママ大好きだからねー。自称マザコン。...まあ、そんなところも可愛いんだけど(無償の愛)(安定着地)。

 

 

公演CHECK

『FUN HOME ある家族の悲喜劇』

『FUN HOME ある家族の悲喜劇』

シアタークリエ 2018年2月7日~2月26日

原作:アリソン・ベクタル / 音楽:ジニーン・テソーリ / 脚本・歌詞:リサ・クロン / 翻訳:渡辺千鶴 / 訳詞:高橋亜子 / 演出:小川絵梨子 / 音楽監督:八幡茂 / 照明:原田保 / 美術:二村周作 / 衣裳:前田文子 / 音響:小幡亨 / ヘアメイク:宮内宏明 / 歌唱指導:矢部玲司 / 振付:吉川哲朗 / 稽古ピアノ:若林優美 / 演出助手:齋藤歩 / 舞台監督:弘中勲 / 制作:渡邊隆 / プロデューサー:鈴木隆介・田中利尚 / 製作:東宝 / 主演:瀬奈じゅん